自分の一番、好きな服屋さん 【オーダースーツ 代官山TAGARU】




 今回は、個人的にとても懇意にしてもらっている代官山のオーダースーツのお店【TAGARU】のご紹介をエントリーいたします。僕自身、はじめはお客さんとしてフラリと立ち寄ったのですが、仕立てていただいたスーツに感動し、ご縁もあって現在は広告・PRアドバイザーとして宣伝のお手伝いをしています。


 今回はお店や商品についてのご紹介だけでなく、店主であり個人的な友人である山本健氏のインタビューを通じて、TAGARUでのオーダー体験の魅力を少しでもお伝えできたらと思います。(本当に腕のいい、親身になってくれるデザイナーさんです!)


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 代官山駅から歩いて3分、路地を奥に入ったところにあるショッピングモール【sarugaku】。ギリシャのミコノス島をイメージした白壁の空間の2Fにひっそりと隠れ家のようにTAGARUはあります。




 店内は決して広くは無いものの、静かで落ち着いた心地よい雰囲気で、ついつい長居してしまう独特の空間です。入り口が階段を上った2Fという、若干入りづらい店構えであるが故に、一度入るとまた来たくなってしまう様な、個人的にはとても好きな空間です。商品は、オーダースーツ・オーダーシャツ・オーダーポロシャツがオーダー商品で、メンズ・レディース両方ともオーダー受けています。特に女性モノでお求め安く作れるのはあまり無いと思うので、とてもいいんじゃないでしょうか(実は元々、レディースのデザインをメインにやってた方なので、女性モノはとても上手いわけです)。他にはレディメイドのネクタイ、シャツ、パンツ、ジーンズなども一部あり。でもやはり、目玉はオーダーメイドだと思います。






 そして彼が店主でありデザイナーの山本健氏。柔和でお茶目なお優しい方です。とても几帳面で真面目な人柄で、出来上がりがお客様のイメージ通りにならない恐れも十分にあるオーダースーツという商品特性ながら、安心して任せられる、そんな方です。TAGARUの魅力や今後の展望、将来の夢について伺いました。


 
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【学生時代 〜ファッションデザイナーとしての原体験〜】



 『小さい頃から、いわゆるサラリーマンにはならないだろうと思っていました』



 父親は大阪でオートクチュールのデザイナー、母親はフラワーデザイナーとデザイナー一家に生まれた山本さん。ご自身も小さい頃から手を動かしたりものづくりをしたりするのが大好きで、父の背を見て、追うように大阪文化服装学院に進学します。


 ご自身いわく、授業の成績は悪かったものの、在学中に仕立てた作品の数は他の学生の群を抜いていたという山本さんは、在学中に同級生と二人で【ナルシス】というブランドを立ち上げ、一時はTシャツ1枚に5〜6万円の値がつくほど人気を博します。



 『デザインはもちろん、モデルスカウトからショー企画まで全て自分たちでやりました。何日も何日も学校に寝泊りする日々。一からブランドを作る喜びを濃く味わえた、僕のデザイナー人生の原体験です』



 学校卒業と共に次へのステップアップを目指し、【ナルシス】は解散。相方がアパレルブランドに就職していくのをよそに、山本さんは就職しない道を選びます。通常、ファッションデザイナーのキャリアステップは、学校などで基礎の勉強をした後に既存のブランドに就職し、実力や人脈、箔などを着けながらステップアップしていき、機が熟したところで独立し自らのブランドを持つというのが一般的です。なぜ山本さんは就職しなかったのか。



 『学生時代に味わった、“全て自分たちでブランドを作っていく喜び”に取り付かれてしまったんです。もう一度、自分のブランドを一から起こしたい。父親も同じように、どこにも属さず一人で身を立ててきた人間で、最も身近で参考にしてきた人間がそうだったことも大きかったです』



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フリーランス時代 〜苦労と経験の10年〜】


 卒業後、数年間は父親の元で手伝いとして働き、24歳の時に上京。芸能プロダクション勤務の兄のツテで新人タレントやアーティストの衣装デザインを手がけるものの、当時はちょうど、芸能業界にスタイリスト文化が盛り上がり始めた頃。田原俊彦松田聖子、光GENJIのように番組出演の度にその都度、衣装をゼロから仕立てていた時代は終焉を向かえ、既存ブランドの服をスタイリストの手によっていかに編集するかが、ファッション誌での特集記事なども含めた一大商業圏を作り始めていた頃です。オーダーメイドで生計を立てていた山本さんも芸能界の時代の波に逆らうことは出来ず、ほどなくして一般のお客様向けの商業スタイルに変更していきます。


 お客様間の口コミだけを頼りに礼服や個人商店の制服、パーティー衣装などを受注する傍ら、それだけでは生計を立てることが難しくカフェや食器店でのアルバイトも並行して行う日々が約10年続きます。その間、何度か自分のブランド設立の計画が持ち上がり実際に始動したこともあったそうなのですが、どれも上手く軌道に乗りませんでした。とりわけ20代後半に知り合いのパターンナーと組んでブランドを立ち上げた経験は山本さんに大きな教訓と決意をもたらすことになったそうです。



 『実際にモノを作って着々と準備していたが、二人ともモノ作りの考えしか持てていなかったんです。モノはどんどん作るものの、それを世の中にどう出していくか、考えがない。結局、日の目を見ることなくブランドは自然消滅。かなり大きな挫折感を味わいました。』



 ただ単にいいものをデザインしていくだけではビジネスとして立ち行かない。それはつまり、丹精込めて書き上げたデザインが世に出ず、人々に伝わらないまま消えてしまうことを意味します。挫折から大きな学びを得た山本さんはファッションデザイナーという枠にとらわれず、精力的に様々な経験をしていきます。アルバイト先の食器ブランドの社長の勧めで、ウェブサイト、ブランドロゴ、食器の図面などなど、持ち前のデザインセンスを活かしファッション以外のフィールドでいろいろな力を培っていきます。「このままこの食器ブランドの一員として働いていくのかも」そう思った矢先、転機が訪れます。


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【TAGARU設立へ】


 30歳前半に差し掛かった頃には、その食器ブランドの社長から、「私の思ったとおりにデザインを仕上げられるのはあなただけだ」と言っていただくほどになり、デザイナーとしての自信を少しずつ抱けるようになっていた山本さん。ちょうどその頃、今まであまりやってこなかったスーツの仕立ての仕事を請けることが増え、お客様からもとても好評をいただけていました。それと同時に、スーツの仕立ての仕事を通じて神田の老舗服問屋の方々と知り合う機会に恵まれていた山本さんは、高齢化が進み衰退しつつある紳士服業界の実態を目の当たりにしていました。



 『ほとんどの方が60歳前後の大ベテランばかりで若い人はほとんどいませんでした。社会的にもビジネスシーンにおける服装はどんどん自由になっていく一方で、神田のベテラン紳士服仕立ての方々と世のビジネスシーンに大きな乖離を感じたんです。』



 「まだ若く、スーツの経験が浅い自分だからこそ、新しい風を吹かすことが出来るかもしれない」 普通の感覚ならば、ともすれば斜陽業態として忌避するであろうオーダースーツの世界に、半ばひらめきのような直感をそのとき感じたと山本さんは言います。逆風だからこそ、そこにチャンスややりがいを見出し飛び込んでいくのは、既存のアパレルブランドに就職せず一人でデザインをやってきた山本さんらしい判断だったと言えるかも知れません。
周囲の大反対を受けながらも、食器店の社長や懇意になった神田の生地店、そして結婚して間もなかった奥様の後押しに勇気付けられ、2009年にブランド設立を決意。準備に奔走し始めます。



 『それまでの人生で一番怖かったです。学生時代のブランドも、20代のときの挫折も、だれかいつも一緒にやってくれる賛同者や協力者がいて、あれよあれよと前に進んでいく感じだったので。誰に聞いても“上手くいくわけがない”と言われた今回は本当に心細かった。奥さんの“このままでもダメなんだから、いいからやってみれば?”という言葉は大きかったです。』



 事業計画、収支目標の立案から不動産選定、ブランドロゴやタグライン、ウェブのデザインまでほとんど全て一人でこなしていった準備期間。学生時代のゼロからのブランド立ち上げ経験や、アルバイト時代の幅広いデザイン経験をフルに活かし、自分の思いを濃く投影したブランドの形を徐々に形作って行き、2010年6月13日、オーダースーツブランド【TAGARU】を代官山猿楽町にオープンしました。


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【TAGARUにこめる思い】


 【TAGARU】というブランドネームは、「〜〜したがる」という、人の持つポジティブな衝動や向上心に由来しています。たとえばフランス語で響きだけはカッコよくても意味が伝わりにくい名前にするのではなく、あくまでも日本語由来の言葉にこだわったと山本さん。そしてこのブランドネームは、服飾デザイナーとして山本さんが最も大切にしてきた価値観の象徴でもあります。



 『服は身体の外側にありますが、ある意味で最もその人の内面が出るものだと常々思っています。“自分はこうありたい”“こんな自分でいたい”という、前向きでポジティブな向上心や自己実現の欲求は服にこそ強く投影される。良い服、その人のお気に入りの服であればあるほど、その人自身のポジティブな願望や欲求などといった、内面を引き立たせるものであると思います。そんな服をゼロから作るオーダーメイドのデザインは、その人の内面をどれだけ分かってあげられるかが、最も重要だと私は思います。』



 そんな山本さんが一番大切にする工程が、【お客様との対話】だそうです。その人のファッションの好みはもちろん、性格、趣味、仕事、年齢などなど。あらゆることを対話と観察から慮り、一着のスーツに落とし込んでいきます。




布地やシャツ型の見本表。無限通りの組み合わせの中からお客様一人一人に最適のチョイスを、丁寧な対話を通じて探り出します。



 『中にはオーダーメイドに慣れていらっしゃって、ご自分で全て指定されるお客様もいますが、大半のお客様は“何となくの好みは分かっているが、どうすればそのイメージが形になるか分からない”方。そんな方の“なんとなく”を、じっくりと対話していく中で少しずつ理解し、こちらから提案していく。オーダーメイドはお客様とデザイナーが共に作っていくもので、そこに醍醐味を感じています』


 何よりも対話、何よりもコミュニケーションを大事にしている山本さん。そのスタイルは、既存ブランドに就職せずに、目の前のお客様の要望に一人で全力で応え続けてきた山本さんだからこそ可能なスタイルなのかも知れません。プレタポルテ(既製品。オーダーメイドの反対語)の既存ブランドに就職していては出来ないような、ある種“遠回り”なデザイナー人生を歩んできた山本さんならではのオーダーメイドの真髄を感じました。





 山本さんが最も大切にする【対話】の現場がこの机。じっくりと相談しながら、世界にたった一つだけの自分のためだけの一着を山本さんと一緒に作っていきます。TAGARUの心臓部とも言える、お客様との一着一着の思い出が集積していく素敵な場所です。


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【今後の夢・目標】


 今後の展望として、短期の目標としては「従業員を1人でもいいから雇いたい」という山本さん。従業員の増員や店舗の拡大をすることによって、よりいろいろな地域のいろいろな方々にオーダーメイドの心地よさを体感してほしい、これまでのオーダーメイドスーツに対する人々の、「古臭い」「おやじくさい」「高そう」「難しそう」といった敷居を下げて行きたいと語ってくれました。若い自分にこそ、オーダースーツの業界を変えることが出来る。ブランド設立時のひらめきを実現することが当面の山本さんも目標になりそうです。



 『ゆくゆくは、プレタポルテのラインも拡大していきたいんです。靴やバッグ、ネクタイなどなど。オーダーメイドだけで全身のアイテムをカバーするには限界があります。自分のブランドで全身のトータルコーディネートが提案できるようになれば、本当の意味でのその人の内面を存分に引き出せると思います。そこまでいければ嬉しいですね』


 プレタポルテのブランドを創るといっても、安価で大量生産のブランドで儲けたいという発想ではなく、トータルコーデを実現したいことこそ山本さんの本当の目的。



 『お客様の顔を見るのが大好きなんです。一緒にひとつのスーツを作っていく過程でお客様の顔が徐々に、「自分の欲しかった形はこれだ!」ってなっていくのを間近で見れるのが本当に好きで。それがやっぱり、僕にとってのオーダーメイドの醍醐味ですね。



 あくまでも【対話による内面の表現】を追及し続ける山本さんとTAGARUの今後に注目です。


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 インタビューしていて感じたことは、ファッションデザイナーとして山本さんは【異端児】であり、【異端児】にしか切り開けない新しい世界は必ず存在しているのだなあということです。既存のブランドに就職せず、長く孤独な下積み時代を経て、自分にしかできないオーダーメイドのスタイルを確立した山本さん。実際にTAGARUに行って注文してみると分かると思いますが、決しておしゃべり上手ではない山本さんの純朴でゆっくりとした、しかしながらオーダーメイドに対するこだわりや情熱がところどころ垣間見えるその【対話】の背景には、数多くの苦労や挫折があったのだと今回初めて知りました。


 本当に丁寧に、自分のイメージする一着を対話によってつむいでいく山本さんは、まるで抽象的なオーダーから望みどおりの髪型に仕上げてくれる腕のいい美容師といったらいいでしょうか。「相手が自分でも言語化できないような、深層心理にまで心を慮りコミュニケーションしていく」ことが広告マーケターの真髄だと日頃自分に言い聞かせている私ですが、【対話する】ということについて人生の先輩から大きな学びを得たような、充実感あふれるインタビューでした。


 是非一度、代官山にお立ち寄りの際はフラっと寄ってみてください。人懐っこい笑顔で山本さんが出迎えてくれると思います。



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 TAGARUのこの夏のイチオシはオーダーポロシャツ。節電の影響で酷暑が予想されるこの夏、身体のサイズにあった涼しげなポロシャツはビジネスシーンでも活躍すること間違いなしでしょう。私も今度つくりに行きます。




また、セール情報や代官山情報をツイートするtwitterアカウントも絶賛フォロワー拡大中です。私もアドバイザーとして運営に携わっていますので、良かったらフォローしてみてください。@TAGARU_sarugaku です。


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TAGARU 〜Personal Order & Lively Motion〜
〒150-0033東京都渋谷区猿楽町26-2sarugaku-e棟2F
TEL: 03-5428-6020
FAX: 03-5428-6070
営業時間:11時〜20時 
定休日:水曜日(祝祭日は営業)
代表 山本健


オフィシャルサイト:http://www.tagaru.jp/
twitter : http://twitter.com/#!/TAGARU_sarugaku
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DAIKANYAMA market street [sarugaku] : http://www.sarugaku.ne.jp/


【文 • 吉田将英】