W+K TOKYO に潜入してきた


 (実はもうだいぶ前になりつつありますが)、np広告学校に一度、ゲスト講師としてお越しいただいたW+K TOKYOのストラテジックプランナー、吉田透氏のご厚意で、特別講義を開催していただきました!場所はW+K TOKYO 六本木オフィス。

http://www.wktokyo.jp/

 PEEPSの中で、ちょっと元首相っぽい方wが吉田氏です。ちなみにW+Kっていうのは、正式名称「Wieden+Kennedy」といって、米・オレゴン州ポートランドに本社を置く世界を代表するクリエイティブエージェンシーでして、ナイキやコカコーラ、海外でのホンダの広告展開などを手がけています。W+K TOKYOには二人だけ、いわゆる戦略プランナーがいらっしゃってそのうちのお一人が吉田氏というわけです。np広告学校の生徒のうちらに、吉田氏が追加講義を施してくださるということでみんなで行ってきたわけです。遅ればせながら、自分の思考の整理沈着のためにも、ここに軽くコンタクトレポートをまとめましょうか。



 エントランス。NIKE FREE RUN+ で使われたスピーカーが鎮座してます。



 MTGルームにはターンテーブルがあります。いいなあオフィスかっこよくて。


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☆「インサイト」に正解なんかない。

 広告屋さんの間ではもはやすっかり共通言語になった「インサイト」。とはいえみんなの頭の中の「インサイト」が指し示す意味ってすごくバラバラしていて、さも意思疎通できてるつもりにMTGでなってて後々になってから全然認識違いだったなんてこともざら。だからインサイトってなに?っていうのは感覚で分かってるに越したことはないのです。吉田氏のいうインサイトとは、「人が無自覚に持っている、潜在意識」という感じ。問題はこっからで、「インサイトはただひとつ存在する正解のようなものではない」ということ。そりゃそうだよね、同一人物の中に潜在意識なんて山ほど眠っている。ポイントは、「無数に眠っているインサイトから、どのインサイトを引っ張り出してきて戦略に入れるか」である。この前提を持っていないと「インサイト探さなきゃ!!」ってなってしまって、つらくて難しくてなかなか見つからないものになってしまう。ただひとつのインサイトが自分が売ろうと思っている商品のために用意されているわけではない。無数に点在するインサイトの中から、どのインサイトを取り出してくれば商品との接点になるか。選び出すくらいの意識が大事。
 で、じゃあどうやって選ぶか?ここが非常に面白くて、いいインサイトとは、「一緒にチームを組んでいるクリエイターが、もっとも面白いものを作れるようなインスピレーションの源になるもの」と定義していました。クリエイターから観て、「そりゃ面白そうだね!」となるもの。それにはインサイトそのものだけでなく、そのインサイトを見つけ出すまでのエピソードがインスピレーションになったりする。有名な「Got Milk」のキャンペーンも、インサイトそのものもさることながら、『一定期間、ミルク断ちをしてもらい、牛乳がないことによってどのシチュエーションがもっとも苦しかったか』をたずねるという調査自体が、ストーリーになっている。ストプラは、発掘のエピソードも含めて(誰もがまだ気付いていないインサイトは、調べ方自体もユニークじゃなければ到達できないに決まっているとも)、「あのクリエイターならこのインサイトをきっと何倍にも面白く、かつ正しい方向に膨らませてくれるだろう」と読むことも、チームにおけるストプラの重要な仕事であるとおっしゃってました。
 これは一瞬、「クリエイターの都合でインサイト選んじゃっていいのかよ??」という風に思ったのですが、大前提として、”与えるインサイトは、確かに生活者に存在するもので、ストプラによってこねくりだされたものではない”ということがあるわけです。クリエイターを笑わせるために作り出されたエピソードはインサイトではない。確かに存在するインサイトの中から、もっとも面白い形で生活者に呈示できるものを選ぶのは、言われてみれば真っ当な考え方。かつ、「クリエイターが面白いと思うものをモチーフに選ぶことが、結果として生活者にとっても最も面白い表現を提供することになる」ので、個人的には納得しました。面白さはすなわち、人の心を動かしているということ。面白くてもモノが売れなきゃ仕方が無いというのは至極真っ当なご指摘ですが、人の心を購買にめがけて面白く動かすことこそ、広告クリエイティブの醍醐味であり、そのための種としてのインサイトをいかにしてお届けするかが、ストプラ(日本的なマーケター寄りのストプラではなく、むしろアカウントプランナーといったほうが吉田氏には当てはまるかもしれない)の本懐といったところでしょうか。
 だからこそ、徹底的に考える。考えて考えて考えて・・・ 吉田氏は「くよくよする人のほうが向いている」と表現していました。どうしてあそこであーしちゃったのか、なんであんなこと言っちゃったのか、あの時こーしてたほうがもっと良かったんじゃないか・・・ 徹底的に仮想する。あらゆるパターン、仮説をシュミレーションしておく。考える量では絶対に負けないくらいの姿勢がないと、この仕事はお金もらえないというお話でした。そりゃそうだ、何もモノを作らずにアイデアで食べていくってことですから。それをしんどいとしか思えないか、望むところと思えるか。適正がこの仕事にあるとすれば、そこなのかもしれないですね。


☆「変な自分」を大切に

 インサイトには正解がない。としたときに、自分という人間が、他者と同じものに接したときに、どんな「他者には思いつかないような変なことを考えれるか」がすごく大事だと吉田氏は言いました。ひょっとして自分だけ??みたいなことにどれだけ気付けるか。いや、「気付いていることに気付けるか」ってことでしょうか。人は何もしないでボーっとしてたと自分では思っている時間でも、いろんなことをグルグル考えたり妄想していたりします。そんな自分の妄想に、いかに気付けるか。つまり自分のインサイトに耳を澄ますってことでしょうか。自分特有の「なんか気になる」をひたすらメモして、集積させて、仮説を持つこと。これがマーケティングの基本中の基本で、人のことを考えることであるというお話でした。集積された気付きからある日、他人には成せないようなアイディアや、気付けないインサイトに到達できることがある。そう考えると、インサイト発掘はとってもクリエイティブな行為かもと感じた。「インサイトをクリエイトする」のは絶対NGですけど、「自分にしか出来ない洞察や気付きの交配の仕方をクリエイトすることで、インサイトにたどり着く」こと、これこそ醍醐味なんだろうななんて思ってました。だから、人と違う自分、変な自分を大事にして、さらけ出すこと。かっこつけないこと(かっこつけるっていうのは、世の中でいう”かっこ悪くない人”という像に自分を寄せる行為)が大事だということです。


☆これからは益々、ストーリーの時代

 少し時代論もお話してくださったんです。戦後まもない、物が足りない時代と、物が充実し、量から質へとあこがれが映った時代を経て、現代社会は、「自分が主人公のオリジナルのストーリーを構築したい」人が一般的になったと。”キャラ”なんて言葉はもうすっかり一般的な用語になりましたけど、自分の中に文脈を作ることが心地よい感覚が今の若い人には特にあるみたいです。その物語は、別に一般的な理想像があるわけでもなく、「格闘家なのにオタク」「一流バンカーなのに週末はプロミュージシャン」「工学部のちバーテンのちIT起業家」などなど、ストーリーを作る楽しみ・喜びみたいなものに人々は気付きはじめているんだという仮説を吉田氏は展開してくれました。それは経済がすっかり豊かになり、物だけでなく情報までも自由に膨大に手に入る世の中がもたらした現状なのでしょうけど、吉田氏は彼らのことを、消費者でも生活者でもなく「ライフスタイルクリエーター」として、つまりプロとして接する必要があるとおっしゃっていました。自らが編集・制作技術を持って能動的に生活を選択していく目利きのある人々を相手にしているんだという自覚がなければ、「CMうってドカンと評判作りましょう」みたいな施策は総スカンを食らうだろうと。なので売り手側も、いい作品を売ろうという意識ではなく、「その人の人生をよりその人の望む形に近づけるように、いい素材を提供する」意識が重要だということです。
 そこで重要になってくるのが、当然の流れですが、「彼らの望む人生のストーリー」をいかに理解できているか、ということです。人生には文脈があって、時間軸をオーバーラップしながら、現在のその人は形成されています。それは決して過去からの積み重ねという意味だけでの時間軸ではなく、未来に対する願望や目標、予定も含まれた、4次元の存在というわけです。それを考慮にいれずに、ある購買接点の瞬間だけの心の動きを捉えようとしても、持続的な成功は実現されないだろうし、それはベストなコミュニケーションじゃないと。いかに彼らの人生の文脈を慮れるか。それは前述した「人を観察して考えて考えて考えつくすこと」がいかに日常から出来ているかによるんだろうなあ。
 広告は、「製品に文化遺伝子を付加することで商品にするソリューション」という風に小霜さんは著書で書かれていたけど、吉田氏のいうストーリーとは、つまりは文化遺伝子なんだろうと思う。どんなストーリーを製品に付与して、それによってどんなライフストーリーを望んでいる人のその人生に取り入れてもらうか、そここそがこれからの広告が出来ることなんじゃないかしらね。その人のそれまでの個人の物語と、そこに交わるブランドの物語、そしてそこから始まる「そのブランドが無かったらおそらく考えられなかったであろう、新しいその人の物語」。広告はそんな、商品から始まるまったく新しいストーリーを接する人に予期させるものなんだろう。だから、「わくわくする感じ」「人生が好転しそうな予感」「面白そう」という、商品の売りとは一見直結しないことも、大事なんですね。つながったよ、好転論とストーリー論!笑



 このほかにも、プレゼンのコツやら、若手としての働き方やら、とても含蓄のあるお話をたくさんしていただいたのですが、全部公開するのもなんなのでこれくらいにしておきましょうか笑 何しろ、人に興味があって人が好きで面白くてたまらない、これが広告人の資質なのだろうと強く思いました。あとは、考えつくすことね。これ。これが何よりも大切。考えるというのは何も立ち止まってうーんと思い悩むことだけを指しているのではなく、街に行って人を観察したり、世代の異なる人と飲みに行ってみたり、自分の妄想を一個ずつ書き出してみたり・・・なんでもいいんだと思います。そこに答えはない。答えの無いものに対して、自分という個人が何をするか。そここそ個性の発露のしどころだと思いますし、楽しいところなんじゃないかな。


 がんばります。ありがとうございました!


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本日の一枚:


ABBEY ROAD

ABBEY ROAD

 本当によいものをたまに聞くようにしたいですね。こんなに作りこまれていて、なのにシンプルな音楽は、きっと彼らにしか作れない。どうやったって出てこないサウンド。そういうものは希少だから、やっぱりたまに触れるようにしたい。