ブロードウェイブロードウェイ

昨日観た映画。かなり感動したので忘れないうちに。



伝説的ミュージカル「コーラスライン」の16年ぶり再演に向けた出演者オーディションの密着ドキュメンタリー作品。コーラスラインそのものの成り立ちや記録とあわせて、オーディションに参加するダンサーを中心にお話しは進みます。


そもそもこのコーラスラインというミュージカルは、これまた伝説的なコレオグラファー(振付師)のマイケル・ベネット氏が1974年に原案を書いたもの。作品そのものが「ブロードウェイを舞台にした、オーディションに挑むダンサーたちの物語」になっています。ベネット氏は1974年冬に、ダンサーを22人集め、夢や恋愛や生い立ちなど、あらゆることを赤裸々に語り合い、その2時間の録音テープからこのダンサー自体が主演であるというアウトラインを着想したそうです。1975年の初演から1990年4月まで6137公演という「CATS」に抜かれるまでは最多のロングラン記録を打ちたて、1976年には最優秀ミュージカル賞はじめトニー賞9部門獲得しました。


このミュージカルで描かれていることが、すなわちそのまま「ダンサーたちの物語」であり、だからこそ、このミュージカルに出演することはブロードウェイで生きていくことを夢見る多くのダンサーたちの憧れになっていることがこのドキュメンタリーで描かれています。自分の人生の全てをこのオーディションにかける・・・そんな人が殺到したオーディション。3000分の19という合格率の中、最終結果まで8ヶ月の戦いを、あるものは海を越え、あるものは職を捨て、NYに寝泊りしバイトをしながら、己の全てをかけていくわけです。


感じたのは、やはり「芸」に生きることがいかに大変かってことですね。芸に生きるすなわち、売り物は自分自身だけ。何か情報や意見を発信するより、モノを生産するより、極限まで自分を追い詰めて見つめなおし、高めないといけない。ダンサーは日々途方もない時間を鏡の中の自分と対峙して過ごします。その鏡の自分をひたすらに見つめなおすことで、自分自身に対する理解を静かに深めていくのだと。なるべく丸裸に、なるべくありのままを理解し、そのありのままそのものをひたすらに研鑽し、自分を捉える。それが出来なければ人様に自分を売り物にして出せないと。ベネット氏はそう作中で語ります。特に、歌って踊るというミュージカルダンサーは、ボクみたいな道具を介したピアノ弾きよりもずっと丸裸で、本当に自分の身ひとつで歌いきらないといけない。信じられない世界ですよ。だからこそ苦しいし、葛藤するし、そこに夢を見る人がいて。ベネット氏が描きたかったのはそういうことなんじゃないかなあ。だからこそ、このミュージカル自体を夢にし、生きる支えにし、不安定な日々を頑張る人がこれだけいるというね。そう考えるとベネット氏およびコーラスラインがショービズ界に残した功績は計り知れないものといえるんだろうね。


そしてオーディションっていう勝ち負けがついてしまう世界。勝負がつくことをいかに経験するかは、重要だと個人的にも思うんです。人生の中で勝負事に真剣に身をおいたことのある人とない人では、目の力が際の際で違う気がするんだなあ。高校の吹奏楽部で感じた物足りなさ(笑)は今思えば、周りのふにゃっとした人たちへのそんな思いだったのかもしれない。一見、勝敗ほど白黒はっきりするものはないし、そういった意味では勝敗のつかない文化的なものに従事するほうが”あいまい力”は付くようにも思えますが、やるからには勝つという信念の裏腹には、負けたらどうなるんだろうという底知れない不安があって、そこで葛藤する。そういう葛藤とか、矛盾する思いを、どちらかを否定することなく併せて飲み込んで、でも前を向いていかないといけないっていう。そういう経験が人を大きくしたり、やさしくしたりするのだなあって強く感じました。


ともかく、夢に向かってひたすらに邁進する人ほど、美しいものはないですね。改めて感じました。やる気出たなあ。みんなかっこいいんだもん。そういう人に私もなりたい笑 あと知り合いのダンサーの皆さんへのリスペクトが、新たな側面から高まりました。ほんとすごいよその根性。


オススメです。