これも自分と認めざるを得ない

 先週末に行って来ました、「これも自分と認めざるを得ない」展。@21_21 DESIGN SIGHT。
http://www.2121designsight.jp/program/id/

 


 タイトルからだけだと何の展示か分かったこっちゃ無いんですけど、テーマは「属性」。WEBにはこれだけ書いてあって。

1. 注文の多い展示会である。
2. 見終わった数日後、たくさんの疑問が醸成されている。
3. 人間の未来の可能性と危険性の両面を示している。


 ある人物をその自分たらしめている要素は、無数に存在しているわけですけど、逆説的に、そのあるひとつの要素のみを持ってその人と認識されてしまうことも起きている、もといそれだけで認識することを意図的に設計しているのが今の世の中であると。「これは私の指紋です」→「この指紋は私だけの指紋です」→「この指紋をもって、”あなた”とします」というように。個人から切り離された属性情報だけが一人歩きし、それは属性情報としてではなく完全に”あなた”として一人歩きした場合、それって怖くないですか?っていうのがメッセージだと思ったんです。以下、ディレクターの佐藤雅彦さんの引用ですけど・・・・


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この展覧会のテーマは、「属性」という、日常ではあまり使われない言葉です。「属性」の意味を辞書に問えば、最初に、


【属性】ぞくせい
1. その本体が備えている固有の性質・特徴
(『大辞林』より)
という簡明な説明が与えられます。例えば、あなたの身体的属性には、身長・体重・皮膚や髪の色・血液型・性別・年齢・体躯・顔つき・声など、限りない項目が挙げられるでしょう。また、社会的属性には、名前を始めとして国籍・住所・職業・所属・地位・人間関係などが挙げられます。その他、癖や持ち物なども、あなたの属性に含まれます。


あなたより、あなたのことを知っている社会


静脈認証や虹彩認証などの最新の生体認証技術は、従来、判別が不可能だった身体的属性をも正確に取得することを可能にしました。一方、人は相変わらず、普通の状態では、自分の姿や声さえも客観的に捉えることはできません。社会の方は、その取得環境と保存環境を日に日に整えつつあり、近い将来、場面によっては、社会の方があなたより、あなたの事を知っているという状況も生まれかねません。そう考えると、取得した属性データをうまく使えば、個人個人に細かく対応したサービスや堅固なセキュリティの確保という方向も見えてきますが、悪用すれば、過度な個人の監視や犯罪という方向も容易に想像できます。


この展覧会では、現在、あなたの属性が、あなたの知らないうちに、社会にどのように扱われているのか、さらには、あなたも意識していない、あなたのどんな属性がこれから社会に認識されていくのかを、作品を通じて知ることができます。そして、単なる技術展示にとどまらず、作品化することによって、属性の未来を可能性だけでなく危険性も含めて鑑賞してもらうことを目的のひとつとしています。


あなたの属性は、本当にあなたのものか。


さらに、辞書には「属性」の意味として、興味深い項目が次のように示されています。

【属性】ぞくせい


2. それを否定すれば事物の存在そのものも否定されてしまうような性質
(『大辞林』より)
例えば、自分の紹介に使う名刺も、その人にとっては名前や所属が載っている属性のひとつです。もし、自分の名刺を目の前で折られたり破られたりしたら、どんな気持ちになるでしょうか。まるで自分を否定されたかのように感じ、怒りさえ生まれてくるはずです。また、何かの間違いで、自分の籍や名前が無くなっていたとしたら、自分の存在が無いかのように社会は扱うはずですし、自分自身も自分の存在について希薄さを感じたり、逆にある種の自由さすら感じることが予想されます。


この展覧会では、自分の属性である声・指紋・筆跡・鏡像・視線・記憶などをモチーフにした作品を展示しています。そこでは、この2番目の意味での属性が、私たちが今まで得ることができなかった感情を引き起こします。さらには、自分にとって、自分とはわざわざ気にするような重要な存在ではなかったという事柄や、自分をとりまく世界と自分との関係も分かってきます。


この展覧会のテーマである「属性」と作品群を通じて、人間と社会の未来がどうなるのか、人間と世界の在り方は本来どうであるのかを来場者ひとりひとりに感じ取ってもらい、そして多くの疑問を持ち帰ってもらい、その疑問をかざしつつ、これからの自分と社会を見つめていってほしいと、私は考えています。

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 佐藤氏本人はこの展示をつうじて、「怖さ」を伝えたかったんだと思うのですが、いかんせん行動展示なので単純に「すげえー!」という感想が先に起こります、大概の人は。それが不本意だったみたいです佐藤氏。確かにこの示唆の2点目の「数日後に疑問が醸成される」というのがすごく肝なんだと思うのですよね。自分とは何か、自分を自分たらしめている要素はなにか、ではその要素さえ持っていれば自分とされてしまうのか。

 
 混んでいる展示は並びます。下手すれば一時間以上。うちも2つほど体験できなかったものがあるので、また後日行こうかな。いろいろ御託を並べましたけど単純に楽しめるものとしてもいいと思うので、行ってみるといいんじゃないでしょうか。おすすめ。


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本日の一枚:

First Collection

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  • アーティスト: ハイドアウト・プロダクションズ,ペイス・ロック,ファイブ・ディーズ,サイス・スター,ヌジャベス,シンゴ02,ファンキー・DL,アパニ・ビー・フライ・エムシー,サブスタンシャル,シンゴ2,サブスタンティアル&L・ユニバース
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 雨が似合う。あえてすごく音量を下げて、さりげなく流れているような状態で、部屋から雨を眺めながら、本とか読みたい、そんな一枚。nujabes