NY~SF 研修行脚 その4


 だいぶ間が空いてしまいましたが、話戻って海外研修。NY4日目のお話になります。朝、ホテル近くのディーン&デルーカで朝食を買い、09:00に訪問先に出発。


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 最初に訪問したのは、MOTHER NY。クリエイティブエージェンシーです。1996年ロンドンで設立し、NYオフィスは2003年に開設。ただこのNYオフィスも2週間後にお引越しとのことで、「最後の一番汚いときに招いてごめんよ!」とCDのPaulに冗談言われてしまいました。いやいやむしろそんなときにすいませんw MOTHERの名前の由来はちゃんとは聞けなかったんですけど、彼らの名刺の裏には全員、自分のお母さんの写真がプリントアウトされているんです!恥ずかしいとか言いながらニコニコとその名刺を渡してくれた彼らからは、生み出すという行為へのリスペクトと、それを自分の人生において最初に、そして一番大切なクリエイトをしてくれた母親への感謝尊敬が感じられたのです。素敵。
→ http://www.mothernewyork.com/




 雑然とした街なみに突然現れたオフィス。階段のみの5階で、ちょー狭くて細いのをどたどた上っていく感じが、あの薄暗さとかちょっと映画に出てきそうで、それころマトリックスのエージェントから逃げ回るあの建物の中のような光の感じがデジャブながらフェティッシュな異国情緒を感じてました。





 で、オフィス。決して空間としては大きくないのですが、いたるところにラフが立てかけられていて、活気あふれるコジーな空間って感じ。自転車通勤の人はここまで担いで上ってきて、そこらへんの空いているところにおいときます。いいなーそういうノリ。ちなみに、職種によってデスクの島を作るような日本的やり方は取らず、上下関係も関係なく、3ヶ月にいっぺんは席替えをするそうです。だから100名ほどの会社がみんな仲良し!という状況が作れているそう。素晴らしい。



 受賞の数々。



 プレゼンターのPaulとMark。CDとADです。(左→右)気さくなイケメンという、一番ずるいタイプw ここでは数々の事例を紹介しながらその底流に流れる彼らの仕事におけるフィロソフィーを紹介していただきました。研修で回った企業の中で、クリエイティブアイデアは一番ここが面白かったと個人的には思いますので、いくつか事例をば!



 まず一つ目が、ベルギービール「ステラアルトワ」のインテグレーテッドキャンペーン。お題は「ステラアルトワの技術・伝統・そのための犠牲というブランドの本質を今一度ユーザーだけでなく生活者全体に布教する」というもの。中心にすえたのは「人力9変化OOH」という、なんとも大変なアイデア。ステラアルトワが大事にしている哲学やおいしさの秘訣を、楽しむ過程を手書きのOOHで日々更新していくという、聞くだけでフィジビリティが頭をよぎってしまうほどの力作。実際にOOHを手書きで仕上げて行く人は一流アーティストを個別でリクルーティングし一定数確保。彼らも自分の作品が広告とはいえど大々的に町に張り出されメディアに取り上げられるとあって頑張る頑張る!結果として刻一刻と画が変わっていくOOHはブログ、Youtubeなどで大規模に広まり話題を呼んだ。最終的にはこのYoutubeの動画のロングバージョンとして作成秘話をムービーにし、ステラビールが協賛している映画祭のオープニング映像として使用。キャンペーンの過程自体がCMになるというわけ。一見、愚直なまでに直球なアイデアだと思うかも知れないけど、それを具現化させるところにすごさを感じる。文句なしのクリエイティブパワーだと思う事例でした。



 二つ目。New Balanceの「365 alarm clock」。スニーカーブランド「New Balance」は誰もが知っている有名なブランドでありながら、どちらかというと機能価値で選択しているユーザーが多く、そこに情緒価値およびブランドの世界観というものが醸成されていないのでは?という問題意識がクライアントの中にあったわけです。そこで、ナイキやアディダスのように情緒価値を含んだブランドにしていくために彼らが提案実行したのがこのアプリ。New Balanceの情緒価値を「生活における、今よりグッドな”Life Style Balance”を提供するスニーカー」というもの。バランスつながりでビッグアイデアを持ってきたわけ。そこで毎日履き心地よく使いやすいという機能価値に立脚して、365日、朝の目覚めと同時にいろいろな新しいLife Style Balanceを見せるアラームがあったら面白いよね!ということになったわけ。毎日違う目覚ましムービーが見れるアプリで、そこには不思議なバランスが呈示されている。全てのムービーはアーカイブ化されてサイトにアップされているので、もしよかったら見てみてください。ペイドメディアゼロながらかなりのDL数をたたき出し、売上げにも貢献したそうです。個人的には「New Balanceの価値 → Life Style Balance」っていうビッグアイデアに感服。あとは、彼らにとってデジタル分野のクリエイティビティは殊更強みとして押し出すまでもない、当たり前のスキルのひとつであるということ。「これからはデジタルだ!」「いや、普遍的な価値は変わらない(だからデジタル勉強しなくてもいいのだ!)」みたいな次元で綱引きしている日本の一部のエージェンシーは見習った方がいいです。ほんと。




 最後は、大手流通「ターゲット」のプロモーションイベント。ターゲットのファッションアイテムの価値を高めるというミッションを受けての一策です(流通が片手間で手がけるアパレルは品質が悪いという印象があるのを、なんとかしたかったようです)。某ホテルを某日貸切り、明りとダンサーの巨大なアート作品をぶっつけリアルタイムで上演(練習してたらばれますから一発だったとのこと)、ダンサーおよびキャットウォークのモデルの着ている服は当然、ターゲットのもので、「華のある、にぎやかで、メジャーなもの」という印象付けに成功したとのことです。20分に及ぶショーはリアルタイムでネット放映され、いろいろな人の目に留まったと同時に、現地でケータイ動画を撮っていた人たちの手によってネット上にUPされまくったそうです。当初の目標は「3ヶ月で1億5000万インプレッション」だったのに対し実績は「2週間で2億インプレッション」という素晴らしいもの。実際にこのキャンペーンの後、ターゲットのアパレル部門の売上げは跳ね上がったそうです。


 彼らが大事にしている哲学のひとつに「Holy Trinity」なるものがあります。遵守すべき三つの価値観のことをさしていて、1.Do Great Work 2.Have Fun 3.make a living (=get money)というわけ。彼らが強調していたのは、「3のために1と2があってはならない」ということ。日本的にはありえないんじゃないかな、特にこのご時世。彼らは、まず1と2を全力で実現させる、その中でどうやったら3が実現できるか考える、という思考の順で仕事をしているそうです。3から考えていたら上で紹介したような途方もないクリエイティブは、たとえ発想すれど実行できないでつぶされちゃうと思う。やれ収益はどうだと現実的だとか、そういう話は当然考えるけど、そんなかでいかにChallengeできるかが大事だし、私たちはそこで負けない、「常に実験し続ける会社だ」という風にポールは言っていた。実験するということは、つまり、リスクをとるということ。そしてそこには悲壮感はなく、「そのほうが楽しいし、自分の仕事に対するプライドに応えられる」ということを実現できるために策を尽くしているだけだと。


 真っ当だよなあほんとに。「最後は人」とは言うはやすし、席替えシステムやチームビルディングの哲学など、この会社にはただ根性論精神論で個別に任せるのではなく、いかにそれは実行される環境に出来るか、アフォーダンスを高めていたわけです。そう、アフォーダンスって考え方が彼らにはあったと思う。「いい風土は、心を大切にする」とも言ってたし。だから彼らはたとえ上手くいかない期のボーナスが半額になったとしても、みんな分かってくれるそうです。理想的じゃなあ。うんうん。


 学ぶことが多かったブティックでした。本当はもう一社この日に回ったのですが、とっても長くなってしまったので、またに譲ります。まだまだ続きます・・・


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本日の一枚:


Baduizm

Baduizm


なんとなくマザーな感じだったので聴いてみた。この人の世界は本当に独特でそれは人生の映し鏡なんだと思うんだけど、たまに自分の共感の範疇を超えてくることがある。ただそれはまったくよさが分からないという意味での超越というよりは、自分には分からなかった何か大切な世界みたいなものをドロっと見せられているような気がするもので、とってもスキです。