NY~SF 研修行脚 その5


 NY4日目の後半。午前中は前記事のMOTHER NY でした。お昼を食べて、午後はMartin Agencyへ。→ http://www.martinagency.com/  1965年にリッチモンドのエリアエージェンシーとして開業し、1980年代に全米に展開。現在は586名の社員を抱えるインターパブリックグループ参加の総合広告会社です。













プレゼンターは今回訪問先の中で初の女性。メディアディレクターのBarbaraさん(左)と、広報のTheresaさん(右)。彼女らは自分を「アイデアカンパニー」と称し、会社のミッションステイトメントには「Ad」という言葉が一回も出てきません。革新的な考え方の力を信じるクライアントのためにいかに価値のあるアイデアを創造し提供できるかが、自分たちの価値であると語ってくれました。あと強調していたのは「One Roof」という言葉。このエージェンシーの面白い特長として、メディアバイイング機能を同じ会社組織の中に備えており、バイヤーも含めた対クライアントチーム(Ownership team)が一丸となってひとつのビッグアイデアに向かって仕事をするというスタイルがあります。といっても日本の広告代理店がメディアバイイング機能も併せ持った総合型であることはむしろ当たり前だと思うかもですけど、バイイングとクリエイティブが別個の企業体として存在しているのが一般的であるアメリカでは彼らのやり方は特殊だということです。彼らはメディアをバンドル方式でまとめ買いしてその後社内の案件ごとに割り振りをするという日本の総合代理店のやり方はとらず、チームの提案内容が徐々に決まっていく中で、並行して個別に枠を買い付けるそうです。なんとも高くつく&めんどくさそうなやり方だと思ってしまうのだけど、卓越した交渉能力と、メディアクリエイティブも含めた立体的な提案のおかげで、相場よりかなり安く媒体枠を調達できるそうです。クライアントもそのメディアクリエイティブに付加価値を認め、高い(自分たちで言ってた)フィーを払ってくれるそう。かっこいいなあこのねーちゃんたち。


 というわけで事例。たくさんたくさん見せていただいたんですけど、ばっさりと割愛して2例。






 一つ目は自動車保険のGEICOのCM。GEICOが依頼を持ってきた1999年当初の課題は「車の保険はブランドスイッチが極めて起こしにくく、後発のGEICO(当初は業界10位)にとって不利である」「コールセンターに電話をかけるのは敷居が高く、知識が必要なんじゃないかとか、押し売られるのではなにかというネガティブがある」「高そう」の3つ。通常はひとつのブランドのコミュニケーションにこめるメッセージはひとつに絞ったほうが高効率で印象付けの意味でもベターという考え方をするんですが、彼らはいわゆるパルプフィクション風というか、同時並行ストーリーのドラマの流行から、消費者はより複雑な並行ストーリーにも理解を示してくれるのではないかという読みをして、それぞれの課題にそれぞれ別フォーマットのCMを作ったわけです。日本でもたとえばブランド広告はこのフォーマット、キャンペーンはこのフォーマットとか、ひとつの企業が複数のコミュニケーションフォーマットを展開することはありますが、ひとつの商品に対して複数のフォーマットを用意するっていうのはかなり変わっていると思います。


 で、ムービーは上から「Friendly」「Saving」「Easy」「Service」という風に役割分けされていて、上に書いた三つの課題に複層的にソリューションをしているとのことです。特に一番上のヤモリのキャラクターはMartinが開発して以来、全米で最も有名なコマーシャルキャラクターのひとつになった、超有名キャラ。ガイコーという響きがgecko(=トカゲの意)に似ていることからとった、GEICOの認知率を引き上げるのに大きな効果を発揮したキャラです。個人的にはリトルリチャーズがかなりスキw



 次は、JFK図書館博物館の人類月面着陸40周年記念のコンテンツの事例。詳しくは → http://wechoosethemoon.org/  ケネディが計画し、1969年7月20日にアポロ11号に乗ってオルドリン、アームストロングらによって成し遂げられた月面着陸を、40年経った昨年の7月に、リアルタイムでウェブ上で再現したのがこの特設サイトになります。実際の着陸は16:17だったのですが、そのときその瞬間までを分刻みでウェブ上に再現。今どこまでシャトルが到達してどんな作業をしているのかを、リアルタイムでじっくりじっくりやってったわけ。そのリアルタイム性が話題を呼びtwitterFacebook上で勝手実況中継をする人が続出。合計1億6600万インプレッションをたたきだし、2009年のカンヌやFWAなどで賞に輝いたものです。投稿された感想の中には当時まだ生まれていなかった子供たちの言葉も多く残され、科学や人類の進歩の素晴らしさや尊さを十分に表現できたリッチなコンテンツとして、クライアントも大満足だったとのこと。うーん、ステキなお仕事でした。


 やはりここの会社で一番の収穫は「メディアバイイング機能を分社せずに、かつアイデアを売り物にしていくスタイル」を見せてもらえたことでしょうか。日本はメディアコミッションフィーで稼ぐという業態そのものに対して限界を唱える声が日増しに多くなり、バイイング機能の分社化とコミッションフィー以外の契約の比率を増やすことによる収益体質の健全化はどこの会社でも唱えられていることと思います。そんな中、メディアバイイングを分けずに、案件ごとの個別買い付けというある意味非常に非効率的なやり方を、メディアにアイデアを負荷し高く売るというプランニングの価値によって成り立たせているというそのやり方には、日本のエージェンシーのこれからの生きる道への示唆が多い気がいたしますです。


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本日の一枚:


Corinne Bailey Rae

Corinne Bailey Rae



 秋晴れの涼やかな空気にこの人の声は映える。新しい方のアルバムまだ聴いてませんがどうですか??