書くことと、祈ること

書いて生きていく プロ文章論

書いて生きていく プロ文章論



 先日読み終わった本と、そこで思ったことを。【書いて生きていく 〜プロ文章論〜】(上阪徹著・2010.12月初版)を先日読みきった。著者はアパレル会社からリクルートグループと職歴を重ねた後、フリーのライターとして生計を立てている方で、【プロ論】をはじめとする経営・金融・ベンチャーなどを主なテーマに取り上げることが多い。そんな彼が、彼のこれまでの経験やそこで感じた「文章を書いて生きていくための秘訣・ポイント」をまとめたのがこの一冊。いわゆる文章術に留まらず、原稿の元になるインタビュー取材や、さらに上位の「そもそもどうやって文章で食べていくか。」についてまで、包括的にまとめられていて、今まで分かったつもりになっていた「ライターという職業」について具体的にイメージできるようになったという意味で自分にとっては意味深い一冊でした。個人的にメモしたのは以下のポイント↓↓↓



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〜ライティング編〜


・なるべく形容詞を使わない。
数字や事実、具体をしっかりと書くことによって、説得力や伝わる濃さが増す。


・どう書くか、よりも「何を書くか」のほうがはるかに大切で重要
そのためには、読み手を意識すること。そしてその人にどんなことを思ってもらうのか、文章の目的を意識すること。特定のだれか、を読み手の代表としてイメージしてしまったほうが分かり易い。


・読み手が知りたいと思っていることをイメージする
読み手におもしろいと思ってもらうには、可能な限り読み手のことが分かっていないといけない。仮に読み手が自分よりも若い世代であったとしても、自分がそのくらいの年頃のときどうだったかを思い出す。徹底的に、読み手が知りたいことを想像する。その姿勢が大事。


・その文章は読んでいて、読み手になにか発見があるか?
読者がおそらく持っているであろうイメージや知識をなんとなく把握できているか=【相場観】があるか、がとても重要。そしてそれを上回ったり、意表をついたりするような内容を類推する。読者を意外な事実によって挑発することが魅力になる。


・書いた後、自分で読み返しているか?
自分の文章には、自分ならではのリズムが存在しているはず。フィードバックして、ブラッシュアップしていくことによって、自分ならではのリズム≒文体が出来ていく。読み返す前に、一日くらい寝かせるとなお良し。


・自分だけの「これだけは」をもっているか?
譲れない自分ルール。たとえば「言葉の繰り返しはしない」「タイトルにこだわる」などなど・・・自分の文体を創っていく上で非常に重要。こだわりポイント。



〜インタビュー編〜


・事前にインタビュー相手について調べる
その人自身の事実を自分が理解しておくことも重要だが、それに加えて、その人が世の中からどう見られているのか、想定読者からどう思われているのかを掴んでおく。すると、ターゲットがその人に関して求める、面白いインタビューが書きやすくなる。


・インタビュー相手の特徴を早めに見極める
多くの人は、ツッコミを入れられるのがすきか、嫌いかに分かれる。それだけでも早めにつかんでおけば、インタビューが楽に進められる。


・きちんと会話をしよう。
メモ取りに集中して相手の顔を全く見ないのはNG。インタビューは「会話」である。沈黙は基本的に避けたいがそれでも自分の言葉でキャッチボールをするのがつらいときは、読者の言葉にしてしまう。「〜〜ということがきっと読者の方々は知りたいと思うのですが。」と聞く。不思議なことにその枕詞で質問を考えると、結構思いつく。


・原稿を作ることを考えて、インタビューをする
どんな原稿に仕上げるか、構成はどうするか、そもそも誰が読むのか・・・原稿作成から逆算する回路を活かしながらインタビューをする。一番意識したポイントは「差別化」 この人しかいえないこと、まだ誰も聞いていないことを意識。そのためには、「何が面白いことなのか見極めること」が大前提。それには「読み手意識」がさらに大前提。


・ご縁を大切にしているか?
「文章を書く」ことはコミュニケーション上、とても普遍的で誰もがやることだからこそ、どの縁がどこで繋がって仕事になるのかは、全くわからない。だからこそ、いろんな人との縁をおろそかにせずに、大事に、謙虚に、丁寧に人と接する。加えて、いろんな場で、「自分が今どんな仕事をしているのか」をちゃんと毎回伝える。ライターであることを表明し続ける。


・業界以外の人と会っているか?
外のまったく違う仕事をしている人たちにこそ、ぜひ自分の仕事について知ってもらったほうがいい。仕事が広がるうえでもっとも大きな威力を発揮するのは、何よりも「紹介」。売り込んでしまっては、「売り込む側」「売り込まれる側」にはじめからなってしまう。すでに上下の関係。対等にひとつのものを共に創っていくくらいのパートナー的な関係性のほうが、良い仕事が気持ちよく出来るはず。


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 ひとつひとつのポイントは、いざ文字にしてみると、大したことない風に見えるんだよね。それは著者自身も本文中で記述しています。でもこれらを抜け漏れなく、きっちりと誠実に文章に込めていくことが、いかに大変なことか。いかに地味でストイックなことか。【文章を書く】という行為それ自体は何も特別なことではないと思うし、ライターを生業にしたとしてもそれは変わらないと思う。ただ、ほんの少しずつの気遣い・ポリシー・クオリティへの探究心を、少しずつ少しずつ積み重ねて、日々書いていく。そのルーチンの大切を、長年のキャリアを持つ著者が自分の言葉でつむいでいることが、この本を読んでの一番の収穫でした。


 プロフェッショナルって、結構そうなんだろうなあと。特別な、秘伝の技ももちろんあるのだろうけど、もっともっと大事なことは、当たり前のことをひたすら続けること。才能とかセンスとか人脈以上に、それが重要。


 全体を通じて著者がぶれずに大事にしているポイントに「読者ゼッタイ主義」があるかと。その文章の価値は、読者が決める。書きたいことを書きたいように書くことも文章の愉しみではあると思うし、図らずもそういった文章を第三者が読んだときに発見や喜びがあることだってもちろん、往々にしてある。ただ、必ずしも自分の人生そのもの以外を題材にした職業ライターとして書いて食べていくことを考えると、それじゃお金くれないんですよね。タレントがエッセイ出すのとはわけが違う。それはすでにタレント本人の人生に対する興味関心がある程度の価値を生む土台になっているからお金になるわけで。そうでない場合は、読み手に読まれて、何かプラスになる感情をそこに引き出せてはじめて「読んでよかった〜」ってなると思うのです。


 BRUTUS【糸井重里特集号】で紹介されていた印象深い言葉に、「生産は消費で完成する」というのがあったのを思います。文章も一緒ね。ライターの作品はその文章それ自体ではなく、「それを読んだときに読んだ人に起こる感情の揺れ動きや、実際の行動・活動の変化、さらには人生そのものの好転」なんですね。それが書き手の作品。おこがましく聞こえるかも知れませんが、そこまで書ききってこその職業ライターなんだろう。文章は読まれて初めて完成する。と。


 一見、地味で地道な心遣いを積み重ねることで、読み手の人生を少しだけでも好転させる。そう考えると、書くことは、ちょっと祈りみたいなものかなと個人的に思って、ますます「書く」ということが前向きで好きになれてよかった一冊。でもこのブログでの記事は、内向的なままでいこうと思いますー位置づけが違うからね。でもどっかで、お金取るつもりで書く仕事が出来たらなあと思います。ちょっとアクションしていってみよう。



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 【Shape of my heart】

 この曲も、個人的には祈りに近いものを感じます。音楽も、そういう意味では上で書いた文章のコツと一緒なんだよね。【伝える】ことは、デバイスは違えど、深いところですべからく共通していると思います。祈り、っていうのもずいぶん偏った解釈かも知れないけど。